憧 憬 の 轍
2022年7月17日 梅雨明けを待つ
雨の日が続いている。
降り続く訳でも無く、降水量も多く無い。
ぐずついた天気が続くと溜まるストレスも大きい。
長雨、あるいは霖雨は紫式部の時代から和歌や小説の題材となる季節を象徴する現象だが、最近は雨が続くとそれが災害のニュースにつながってしまう事の方が多い。
気象観測の技術は飛躍的に進歩しているが人智を越えた世界だ。
西の彼方の戦況だけでなく暗いニュースが続く中、COVID19の感染者数が急増している。
この連休後はさらに増えているだろうと思うと気が重くなる。
6日に46年ぶりの車検を受けたW1だが、これで終わった訳ではない。
むしろここから始まったと言うべきかもしれない。
YAMAHA SR500用のFRP製の前後フェンダー(フレアタイプ)を取り付けるのは当初からの計画だったが、それよりも先にネジ山を破損していた左側のタンクコックを再生しなければならない。
破損したネジ山部分にアルミロウを盛ってタップ加工する予定だ。
50年以上前に作られたアルミ鋳物が現代の物と同等なレベルで作られているとは思えない。
現代のアルミ鋳物=アルミダイカストADC-12は融点が580℃だが580℃以下でも変形しかねない。
ネジ山の再生のためには出来るだけ硬いアルミ素材を使いたいと考えて「硬アルミロウ」と言う素材を手に取ってみたが作業温度は580℃。
これでは話にならない。そこで見つけたのが「アルミソルダー」だった。
融点は380℃、「硬アルミロウ」に比べて200℃も低い。
まずはゴミ箱行が決定しているレバーで練習。
表面に軽くサンドペーパーをかけてから専用のフラックスを塗り、バーナーを当てる。水分が飛び、一度固形化したフラックスが再び液化した時にソルダーを当てる。
硬アルミロウのように流れないが加熱した母材の温度でソルダーを溶かすタイミングがなかなか難しい。
固形化したフラックスが再び液化する温度は400℃程度のようだ。
何度か練習を繰り返すうちにフラックスが再び液化するタイミングも分かって来た。
液化したらバーナーを離し素早くソルダーを擦り付けるようにしないと泡立ってしまう事も分かったので、いよいよ本番!
しかし結果は最悪だった。
50年以上前に作られたアルミ鋳物はフラックスが再液化する前に脆くも溶け出した。
さらに内部に細かな空洞、いわゆる鋳巣が多く作業は中断。
ソルダーの融点の380℃まで加熱したら原型を留めないくらい変形しそうだった。
何か別な方法を考えなければならないが・・・。
W1のフュエルコックの件で沈んだ気持ちを忘れなければならない。
気分転換が必要だった。
『編集長』にとってこの週末は「特別な日」らしく、持ち込んだCB400SFには手がつかない。
眠っていた17年の間にタンクのガソリンはすっかり変質していた。
もちろん錆も出ているが、なれの果てのガソリンの除去の方が厄介だ。
洗剤と湯を入れるとタンクの中の液体はまるでチョコレートを溶かしたような色をしていた。
以前にも似た様な作業をした事がある。
3年前の冬の初めにI氏から預かった除雪機だ。
硬い水飴のように変質したガソリンがキャブレターにまで入り込み末期的な状態だった事を思い出した。
当時はペール缶でメタクレン(ジクロロメタン)があったので除去は簡単だった。
油分の除去に最適な液体は既に使い切ってしまった。
タンク以上に心配だったステムシャフトは奇跡的にほぼ狂いは無く、使えると判断した。
もちろん精密な計測をした訳ではない。
ベアリングレースも極端に大きな打痕は無い。
転倒時の衝撃が集中したと思われるインナーチューブは言うまでもなく両方曲がっていた。
『編集長』はこの車両を持ち込む前にキャブレターを外し、ひと通りのクリーニングを終えている。
クランクシャフトを手で回しても特に違和感はない。
エンジンを再始動させる事は案外容易かもしれない。
先週末に終わった参議院選挙の結果は概ね予想通りだったが、ニュースとしては元首相の銃撃事件の影に隠れてしまった感が否めない。
今回もまた政治とは無縁な経歴の立候補者が目立った。
「立場が人をつくる」と言う言葉がある。
その立場が本人の意図とは違ったものだったとしても、立場によって育まれた人材は数知れない。
そしてその逆もまた数知れない。