憧 憬 の 轍
2020年6月28日 時時刻刻
偏東風と書いて「やませ」、
山背と書くこともある。
北日本の太平洋側に春から夏にかけて吹く東寄りの風の事だ。
この季節に冷たく湿った風を喜ぶ者はいない。
さらに山の向こうの日本海側に比べて、
気温が10℃程度低くなる日も珍しくない。
今年もそんな季節になった。
6月最後の週末。
『編集長』のZEPHYRχはキャブレター周りを元の姿に戻し、
同調作業を終えていた。
タンクのコックにはキャブレターの負圧を伝えるホースを繋がないままだ。
コックのダイヤフラムについてはフロートバルブが今後も問題なく作動する事を確認してから。
とにかくこの状態で安心して走れることを確かめたい。
『編集長』は新品のコックを用意しようとしているらしいが、
ナマクラなメカニックとしてはまずフロートバルブに結論を出したいと思っていた。
自分なりにはキャブレターは問題ないと思っているが、
実走距離40,000㎞を越えているだけに気が抜けない。
それにしてもレッドゾーン手前まで気持ちよく吹け上がるのは4バルブの恩恵だ。
『編集長』のZEPHYRχはDOHCの4バルブだが、
『特攻隊長』のXLR250Rや『林道1号』のT氏のXLR-BAJAはOHCの4バルブだ。
RFVC(Radial Four Valve Combustion Chamber=放射状4バルブ方式燃焼室)と言うサブロッカーアームを用いた複雑な構造のシリンダーヘッドによって半球形の燃焼室を実現した。
それこそ4サイクルの高回転技術に拘るHONDAらしいメカニズムだ。
そんなRFVCを搭載したバイクがまた1台やって来た。
一見してXLR250R-BAJAだがツインのヘッドライトが付いているだけのXLR250Rだ。
BAJAはオイルクーラーが標準装備されているだけでなく電装系も違う。
それでも同じMD-22、
エンジンの型式も同じMD-17E。
確かに同じエンジンを搭載した同型の車種だがBAJAには別な車両型式を与えて貰いたかった。
5月初旬に「CDIユニットがイカれた~」と騒いだ『過積載軍団・2号車』のR氏がこの“BAJAもどき”を超安価で手に入れてしまった。
『特攻隊長』のXLR250Rと並べると別な車種に見えるが実は同じ車両だ。
このXLR250Rはオルタネーターで発生させた交流電源を整流しないまま使っている。
そのため、いわゆるバッテリーレスキット=大容量コンデンサーが使えず、
ツインのヘッドライトも片方しか点灯させることが出来ない。
消費電力が少ないLEDに替えようにもヘッドライトの電源だけでも直流化しなければならない。
面倒くせぇのがまた1台増えてしまった・・・。
「CDIユニットがイカれた~」と思われていたR氏の中華モンキー、
不調の原因は極めて初歩的なものだった。
オルタネーターのカバーを外し、
さらに配線系統を確認する過程で見つかった意味不明な2本の配線。
1本はブレーキスイッチに繋がっていたがもう1本は何にも使われていない配線らしい。
さすが中華、
そして点灯しないテールライトを開けてみると破裂したようなバルブが出て来た。
球体が破裂しショートしたフィラメントは火花を散らし、
テールライトのケースの一部を溶かしていた。
すべての原因はバッテリー端子のボルトの緩みだった。
ドライバーが無くても回せるほどに緩み切っていた。
エンジンの振動によって増幅した接点不良が招いたトラブルはあっけなく解決し、
結局もとから付いていたCDIユニットも問題は無かったようだ。
これを徒労と言わずして何と言えばいいのだろうか?
もうすぐ今年も半分が終わると思うと複雑な気分になる。
それと言うのも年が明けてから楽しい記憶が少ないからだと思う。
世界中でそんな状況が続いているが作業場にはひとつの祝い事があった。
『スポカブ・ブラザース(弟)』が普段から職場で目をかけているS君が昨日、
普通二輪免許を取得した。
「中型免許」と言った方がピンと来る作業場のメンバーの多くは彼と親子ほど年齢差がある。
ささやかな祝宴を開く事になった。
S君は今後、かつて『編集長』の愛車だったGB250 Clubmanを受け継ぐ予定だ。
単に譲り受けるのではなく“受け継ぐ”事になる。
『特攻隊長』から『編集長』へ、
そしてS君へ。
車体だけでなくそれぞれの「想い」も一緒に。
ただ、『特攻隊長』から受け継ぐのは「想い」だけにして貰いたい。
そろそろ本気でS君のニックネームを考えなければならなくなった。