憧 憬 の 轍
2019年1月13 日 Saxifragestolonifera=ユキノシタ
相変わらず雪の量は少ない方だと思う。
気温も最低と最高の差が7℃程度。
夜半に降り積もった粉雪は箒で払える程度だ。
毎年の事ながらこうして春を待つ。
札幌で暮らしていた頃、一晩で1m近い雪が降った事があった。
地下鉄以外のすべての交通機関が止まり、仕事どころではなかった。
誰もがスコップを手に除雪作業にその日を費やしたが、思い出の中には笑顔だけが残っている。
長期停滞中の「プロジェクトC92-R」だけでなく、初期型XL125の発電系統も中途半端なのに届いたC105H。
俗に言うハンターカブ、1962年型で当時は北米向けの輸出専用モデルだった。
日本国内モデルのスーパーカブC100がベースになっていて「ハンターカブC105H」の名称で少数が日本国内でも販売されたらしい。
本来スーパーカブは右手だけで運転ができるように設計されていたはずだが、このC105のハンドル右側にはスイッチ類が何もない。
左側にヘッドライトとホーンのスイッチがあるだけだ。アメリカでは車両は右側通行だから・・・、と言う訳ではないと思う。
右側には何もない
左側にあるのはホーンとヘッドライトのスイッチ
この車両も某オークションで手に入れたものだ。
落札する前から幾つかの難点は分かっていた。
小さな写真でしか説明されていなかったとは言えそれにクレームをつける事は出来ない。
結論としては“やるしかない”。
キックレバーのシャフトの末端、スプラインが切られた部分の欠損は補修しようもない。
大魔神・O氏には代替えの部品を探してもらった。
なぜだか某オークションにはO氏が必要な部品や欲しがるモノがすぐに出品される。
それを人徳と言うかどうかは分からないが・・・。
先端が“欠けた”ようなキックスターターシャフト端部
さらに問題なのがこのマグネットローター
キックスターターのシャフトは代替え部品が既に見つかり入手済みなので交換するだけだ。
クランクケースのサイドカバーを外せば難しい作業ではない。
問題は左側、アウターローター式のマグネットホイールを押えているのは10㎜径のナットのはずだが、ワッシャーごと溶接されていてクランクシャフトの末端が見えない。
もちろんこれについても了承の上で落札したのだが、現物を見て感じた悪い予感は的中してしまった。
溶接痕の無い部分にドリルで穴をあけ、少しずつ溶接されているワッシャーを切り取る。
ローターのネジ山にまで溶接痕があるため専用の工具が使えない。
点火タイミング調整用の小窓にギヤプーラーをかけて引っ張ってみると簡単に2㎜ほど引き出すことが出来た。
この溶接は何?
やっとの思いで外したマグネットローター
わずか2㎜程度引き出せてもウッドラフトキーが効いていれば、クランクシャフトとマグネットローターは完全に分離していないはずだ。
ところがローターだけが回る。
ローターを外した時にポロリと落ちたウッドラフトキーを見て、「なるほど」と思うしかなかった。
“変形”のどころじゃない!
それでも厚さは保たれていた
分厚いワッシャーを2枚重ねてクランクシャフトの端部に溶接していた理由は、おそらくシャフト端部のネジ山を崩してしまい、マグネットローターをナットで押さえきれなくなったからだろう。
ウッドラフトキーの変形については幾つかの事が想像できるが、部品として再利用できるはずもない。
3×5のキーはホンダ車で多く使われているので代替え部品はすぐに見つかるはずだ。
クランクシャフト端部に関してはφ10のボルトを溶接してローターを押さえられる状態にするか替え部品を探すしかない。
クランクシャフト端部のテーパー部とウッドラフトキーで、芯も位置も決まるので溶接するボルトの芯とクランクシャフトの芯が完全に一致しなくてもマグネットローターを押さえる事が出来ればいい。
厚めのワッシャーと緩み止め付きのナットで組み直してみようと思った。
実は1月12日(土曜日)夕方から「スーパーカブを熱く語る夜会」、名付けて『NightMeeting The Super-Cub』を開催する予定だった。
今回のC105Hを含め4~5台のスーパーカブを所有する大魔神・O氏をはじめ、カブ関係にはウルサイと言われるC92ブラザース、初期型スーパーカブから現行型にまで詳しい「樵の巨匠」をパネラーに“熱く”語ってもらうはずだった。
しかし大魔神・O氏は風邪でドクターストップ状態。
インフルエンザ?
残念ながら熱く語る夜会は延期されてしまった。
「夜会」が延期なら話題は多い方がいい。
そんな独断からC105Hのエンジンを降ろし解体作業開始。
ボルト2本でエンジンは分離
早速ヘッドカバーをパッカーン
延期された夜会―『Night Meeting The Super-Cub』に酒の肴を1品追加程度のつもりだったが、結果として多くの話題を提供してしまう事になった。
おそらくこのエンジンは焼き付きを起こしていて、マグネットローターを押さえるために施された溶接以上に残念な状態だった。
ピストンは傷だらけ、ピストンリングは破断、さらにプッシュロッドは変形していた。
まずはヘッドカバーを
ヘッドもシリンダーも
傷だらけのピストンと破断していたトップリング
プッシュロッドも変形していた
確かに落札額は“格安“だったかもしれない。
しかし当時、輸出専用だった車種の代替え部品を探す事を考えれば再生作業は簡単でないのかもしれない。
それでも世界生産台数1億台以上の各種Super Cubは本田技研工業の、というより日本の誇りでもある。
時間がかかっても代替え部品は必ず見つかると思っている。
C105Hの腰上を解体したところで作業は一段落。
遅々として進まない「プロジェクトC92-R」の事も忘れている訳ではない。
「見た目が気にいって・・・」組み合わせることになったYAMAHA SR-500の前輪ハブと車輪一式、アクセルシャフトの径が合わない。
両端の径を約1㎜程度削らなければC92用の前輪サスペンペンションに合わない。
ありがたいことに作業場に集まるメンバーは様々な“本業”を持っている。
しばらくご無沙汰だったリョウ君は若気の至りで買ったBMWを国産の軽自動車に乗り換え、若者としての“本来あるべき”クルマ好きになっていた。
彼の職場でならこのSR-500用のアクセルシャフトの加工も出来るのではないかと思い相談してみると、「簡単ですよ、で、誤差はどの位で・・・」なんて頼もしい限りの答えが返ってきた。
作業場に集まるメンバー最年少の彼だがSUZUKI Bandit250(250ccながら45ps)にアップハンドルを付けたい、なんて言っていた若者(バカ者?)は大人になっていた。
発電系統が解決しない初期型XL125、遅々として進展がない「プロジェクトC92-R」、そしてC105H。
作業場はこれまでにない「3台体制」で足の踏み場もない!
SR-500用アクセルシャフトは加工依頼
新年早々の3台体制
延期された『Night Meeting The Super-Cub』に、より多くの話題を提供するためにも、成人の日で祝日の明日、ヒマな時間はC105Hの腰下までバラすつもりだ。
編集長に倣ってオマケの写真を。
C105Hのヘッドカバー
シリンダーヘッドの燃焼室側
3台同時進行でパニック寸前だが、不思議と楽しいのはなぜだろう。
ところで、「林道1号」ことT氏はTL125のクラッチ板の交換を無事に終えたのだろうか。
他人の心配をしている場合ではない。