情景の轍
2019年10月13日
猛烈な勢力を保ったままに北上した台風19号の被害が次々に報じられる。
特に関東圏では竜巻まで起こり、被害は甚大だ。
自分が暮らす街でも一部で避難勧告が出されたが、大きな被害は今のところ無かったようだ。
そんな中、ラグビー日本代表は決勝トーナメント進出を決めた。
被災した地域の心情を慮れば喜んでばかりもいられないが、最後の最後まで勝利に拘る姿は涙腺に訴えるものがあったと思う。
今後、被災地には数多く支援の手が差し伸べられるだろうが、今夜の勝利もそのひとつにしてほしいと思った。
「夜会」とは文字通り夜に開かれる晩餐会や舞踏会の事だが、中島みゆきは1989年から「夜会」と題してコンサートでもなく、演劇でもなく、ミュージカルでもない“夜会”を開催して来た。
中島みゆきを知る者としては実に彼女らしいと思うだけでなく、一貫したコンセプトは『言葉の実験劇場』と言うあたりがまた中島みゆきらしい。
作業場に集まるメンバーも「夜会」だ。
「秋の味覚・秋季安全祈願大祭」などと訳の分からない、いわゆる“ただ
の飲み会”を繰り返してきたが、今回からは我々も「夜会」と呼びたいと思う。
さらに『樵の巨匠』の手によって再生を果たしたTLR200のお披露目会でもある。
エンジンの解体と細部確認作業やお色直しは、もうすぐやって来る冬の間の楽しみとして残すことにした。
一応は実働状態ながら様々な問題を抱えていた車両だった。
数日前から盛んに報じられていた台風19号は東北地方も12日夜半から13日午前にかけて強風が予想されていた。
そのため仕事の関係で参加できなかったメンバーもいたが、そんな報道はそれこそどこ吹く風、『樵の巨匠』はいつになく積極的で、はっきり言って少々気味が悪い。
「芹鍋と秋刀魚と日本酒でやるべ!」 と言う提案も『樵の巨匠』からだった。
そもそも『芹鍋』って何? 出汁を鶏や鴨で採ってとにかく芹を山ほどブチ込んで・・・。
ゴーストライター兼調理担当としては黙って任せるしかない。
芹は春の七草として七草粥にも用いられるが、既に秋を感じる季節にスーパーの店頭に並んでいるのはなぜだろう。
秋の七草は、女郎花、尾花、桔梗、撫子、葛、萩、藤袴と食材と言えそうなものは無い。
もちろん喰って喰えねぇことは無いべ?
と言われれば答えに窮するが、どれを喰っても腹を壊しそうな草花だ。
ちなみに春の七草は、芹、薺、御形、田平子、仏座、菘、清白。
なんとなく食べても腹を壊しそうにない響きがある。
七草粥を食べる習慣は中国から伝わったものらしく、唐の時代の寓話が起源だと言う。
日本では地域によって具材や食べ方が違い、本来は1月7日の朝に食するものらしい。
七草粥の習慣は平安時代に始まり室町時代には汁物の原型となったと言う説もあるくらいなので、昨夜の芹鍋は縁起担ぎのひとつと考えることにしよう。
中島みゆきの、「コンサートでもなく、演劇でもなく、ミュージカルでもない夜会。
我々の夜会もそれに近い。
話題はバイクの事、それも走る事だけでなく機械としての少々専門的な話や、隣国との関係に端を発した国際問題、深海で見つかった微生物によって自己治癒(修復)力を持ったコンクリートやセラミックが開発された事、そして誰もが聞きたい下世話な異性問題など、これが汁物なら多岐にわたる話題は具材が多すぎて、すでに「闇鍋」状態だった。
早いもので今年も10月半ばだ。
1年を振り返るにはまだ早いが様々な事があった。
それは決して良い事ばかりでもなく、かと言って悪い事ばかりでもない。
この作業場に集まるメンバー達がそれぞれに思う事や考えている事を言い放ち、酔いが覚めれば何事も無かったようにそれぞれの日常に帰る。
そんな混沌とした時間が楽しい。
明日からまた、次の「夜会」に向けて様々な話題が蓄積される。
こうしてもうすぐ今年も終わる。
夜ごとに増える酒量と喫煙量は自らの近い将来を暗示する。
寝つきの悪さも寝覚めの悪さも、歯車の狂ったような生活サイクルに起因している。
いっその事、酒や煙草と縁を切ってしまえばいいのだけど、酒や煙草に救いを求める弱い、弱すぎる自分がいる。
明日は祝祭日とは言え月曜日だ。
二日酔いでダラダラと過ごしてはいられない。
コーヒーカップに注いだワインを片手に窓の外を見ると空には見事な満月。
完全な満月になるのは明晩らしいが、台風一過の夜空に煌々と輝いていた。
こうして今夜も日付が変わる。