憧 憬 の 轍
2022年10月16日 秋桜ゆれて
遠くに見える山が色づいている。
急激に下がった気温が紅葉を早めたのかも知れない。
今年は夏らしい夏も残暑もないままに秋が来たような気がする。
せめて霜が降りる前に海へ行ってみたいと思っている。
『トーハツのレイジ』が持ち込んだツインアローLA5、不調だった右側の気筒は、ピストンにもシリンダーにも大きな問題が無かったので再び組み立てた。
解体時に気になっていたシリンダーヘッドのナットは調子よく回る左側の締め付けトルクを参考に締め直した。
約150㎏・㎝と現代のバイクでは考えられない程低い。
LA5のエンジンは2ストローク2気筒のピストンバルブ。
リードバルブやロータリーバルブに比べて構造は単純だが、それ故に圧縮が重要なのだと思う。
メーカーが指定するトルクも分からないまま昨日締めたナットのトルク抜けを確認すると、4本のうちの2本が100㎏・㎝程度まで抜けていたので締め直してエンジンをかけてみた。
しかし結果は何も変わらなかった。
トーハツ(東京発動機)は1922年に創業し1950年代中期には日本一のオートバイ販売実績を誇った。
それは第2位のホンダの2倍以上だったが1960年には販売シェアは5%以下にまで落ち込んでいた。
1964年に倒産、会社更生法が適用されたが、その後オートバイは生産していない。
そんな社歴が災いしてかトーハツのオートバイに関しての資料は少ない。
今年は「呪われたツーリング」となってしまった恒例の1泊ツーリングの際に、下側のクランクケースからオイルを漏らし続けた‘75 CB400Fourのために用意したクランクケースが届いた。
オークションのページには「補修あり」と書かれていたが補修部分の画像は添付されていなかった。
添付されていた8枚の画像のほとんどが上側のケースの物だった。
それでも「良い」以上の評価が約99%のストアだったので信用したのがそもそもの間違い、届いたクランクケースを見て愕然とした。
まず梱包を開いての第一印象は「汚い」だった。
さらにテンコ盛りの溶接痕の上に樹脂まで盛ってある。
全体にこびり付いたオイルに付着した切削屑。
そして蜘蛛の巣。
どんな神経でこんな状態のモノを売ろうとするんだ?
CB400Fourの下側クランクケースには2ヵ所のオイルパスがある。
そのうちの1ヶ所が完全に溶接で塞がれていた。
オイルパンとの合わせ面も傷だらけで使いモノにならない。
添付されていた8枚の画像にせめて1枚だけでもこの補修痕があればその時点で入札は考えなかっただろう。
届いた翌朝に怒りを込めて返送したのは言うまでもない。
もちろん着払いで。
腹を立ててばかりもいられないので別なクランクケースを入手した。
テンショナーロックボルトがヘリサート加工されているがそれ以外には手が加えられていない。
何より全体的にきれいだった。
おそらくは今後、余程の事が無い限りこのエンジンを解体することは無いと思っている。
クランクケースを開けるのは12年ぶりだ。
来春に向けて消耗部品を全て確認しながら作業を進める事にした。
日を追うごとに夕暮れが早まる。
10月も半ばを過ぎて空もすっかり秋だ。