憧 憬 の 轍
2023年3月10日 春より速く
春のような冬と冬のような春。
3月に入ってから肌寒い日が続いている。
天気は良くても風が冷たい。
2月下旬の時ならぬ陽気に「今年は春が早いかも知れない」などと思ったものだが、期待外れだったようだ。
地方版のニュースでも卒業式が報じられ、全国版のニュースでは早くも桜の開花予想が報じられているが、昨夜の粉雪が春はまだ遠いと言っているようだった。
走り出してしまったアタマのブレーキは古びたドラム式だったばかりか、ほぼブッ壊れていたらしい。
そんなアタマで本来の作業予定などを考えても今度は思考回路のクラッチが滑ってしまう。
元来不器用な者が複数の事を同時進行させようとする事が間違いなのだ。
そればかりか春めいてきたとは言え、日中の最高気温は3℃程度。
こんな温度の中でKSR-Ⅱのフレームやスイングアームを再塗装しても満足な結果は得られない。
そこでもう少し暖かくなるまでKSR-Ⅱの作業は延期してVMX12のキャブレターに手を付けた。
4基のMIKUNI BDS35は70°V型4気筒エンジンのシリンダーに挟まれたように納まっている。
趣味でバイクのレストアを始めて以来、幾つものキャブレターに手を付けて来たが、V-Boostシステムが絡んだキャブレターに手を付けるのはおそらく最初で最後だろう。
キャブレター本体とマニホールドをつないでいる樹脂製部品に硬化は少なく、潤滑剤を使って簡単に外すことが出来た。
単なる4気筒ならシリンダーヘッドとキャブレターがそれぞれつながっているだけだが、V-Boostシステムのために前後のマニホールドもつながっている。
最も興味深い部分だが、まずはキャブレターに専念する。
キャブレターは横置きなので縦置きに比べてフロートチャンバーに残っているガソリンは少ない。
それでも4基分となるとそれなりの量になる。
1基ずつドレンボルトを開けてみたが、中は錆だらけだった。
チャンバーの底に溜まっていた錆は予想通りだったとしても、合わせ面にはみ出していた黒い液体ガスケットやネジに付いている傷からこのキャブレターはこれまでに何度か手が付けられている事が分かる。
Oリングは既に断面が4角で硬化も進んでいた。
ジェットブロックやジェット類の詰まりや汚れも然ることながら外見上も気にかかっていたのがエンリッチャーの中のダイヤフラムだった。
ダイヤフラム自体に傷や破れは無かったがスプリングの錆や汚れは想像以上だった。
キャブレターは解体を進める度に溜息がでる。
チャンバーと本体の合わせ面のOリングだけでなく、思いのほか多くの交換部品が必要になりそうで、懐にも冷たい風が吹く予感に震えている。
キャブレターのメンテナンスキット(Oリングやガスケット類、ジェット類のセット)の値段は調べる間でもなく予想できるので、しばらくはクリーニングに精を出すことにした。